主要文字入力方式の良し悪しを整理する

前回の続き。基本的に親指シフトをdisり気味です。せっかくなので整理しながら比較してみようかと思います。

ローマ字入力のメリットとデメリット

•最上段のプライオリティが低い

よく覚えるキーが少なくて済むと言われますが正確ではなくて、数字や記号で出番があるので完全に覚えなくてよいということはありません。ただ出番は少ないとか数字の場合はテンキーもあるので、多少うろ覚えでもどうにかなります。

•とはいえアルファベット配列だけ覚えればよい

まあ言わずもがな。初めてキーボードを触る時のメリットとしては大きいです。しかも日本語を入力するという状況に限れば、QとかXとか割とどうでもいいキーもありますし。ただショートカットで使う場合も多いですしメアドやURLなどで記号を使うことも多々あるので、結局26文字+記号を覚えないといけませんが。

•みんな使ってる

他人のPCを使うシチュエーションではメリットです。たまに拗音の入力方法で議論になることもありますが、それはそれで楽しいかも。仮にネットカフェなどでパソコンを使うという場合にも特に苦はないはずです。

•英語キーボードでもどうにか使える

キータッチとかハードウェア面にこだわりだした場合、海外製品にも選択肢が広がるのはメリットと言っていいでしょう。記号の配列が違うというネックはありますが、スペースバーが大きいのがいいという意見もありますね。昔、Happy Hacking Keyboard Professionalにおいて英語配列しかなくて涙をのんだことがあります。今でこそ日本語配列はあるものの、かな無刻印とかいうわけわからん仕様だし。

続いてデメリット

•思考の阻害になりうる

入力したい日本語から一度ローマ字をイメージしないといけないのがデメリットです。ただしこれは慣れで克服できると言われますので「なりうる」としておきます。詳しくは後述しますが、私はこれがまったくできません。なのであまり詳しくは書けないんですが、思考の経過としてローマ字をイメージしてないということですかね。どのキーをコンビネーションで押せば目的の文字が入力されるというのが、完全に染み付いてる状態とでも言えばいいでしょうか。

•打鍵数が多くなる

これはしょうがないところです。ただし絶対的なスピードを上げれば結果に問題はなくなります。

かな入力のメリットとデメリット

かな入力の場合は、このメリットとデメリットが概ねそのまま逆転します。

•打鍵数は少なくなる

理論上はローマ字入力に比べて6割くらいで済みます。

•思考の阻害が少ない

脳内でローマ字をイメージしなくてよいわけですね。あと個人的には外来語をローマ字で入力しようとすると、英語の字面がイメージされてしまってやりにくいんですよね。例えば「コミュニケーション」を「komyunike-shon」としてイメージできないんです。別に英語が得意なわけじゃないんですがどうしても「communication」になっちゃう。

•最上段や右端の出番は結構多い

ローマ字入力と比べてしんどく見えるのはこれですね。「あうえおやゆよ」が最上段にあったり、濁点や半濁点や長音が右側にあるので、出番はそれなりにあります。これはちゃんと覚えないといけないというのと、手の可動範囲が広くならざるをえないので、手が小さい人の場合はややしんどくなるというのがあるかもしれません。

•結局、英字の配列も覚えないといけない

URLとかキーボードショートカット、あとはコンソールやターミナルを使う人やプログラマの場合は、英字入力が必須ですね。よくかな入力の人はURLやメアドが打てないと中傷されますが、そんなことはありません。ちゃんと英字配列も覚えてるんです。

•日本語配列のキーボードじゃないといけない

まあ日本国内だったらそんなに困らないんですが、多少はハードウェアの選択肢が狭くなります。
最近は日本語配列かな無刻印とかわけわからないのもありますが。タッチタイプできるとしても、気持ち悪いんですよねぇ。

•iPadでは50音順配列しかない

これが地味に大きいんですよねぇ。いまだにiPadの購入をためらう。持ち運ぶ時にいちいち外付けのキーボードをセットで持つというのはなんだか間抜けだし。Andoroidタブレットとかはどうなんでしょうか。

親指シフトのメリットとデメリット

では親指シフトについて考えてみましょう

•打鍵数は少なめ

かな入力ほどではないですが、ローマ字入力よりは打鍵数が少なくなります。左右のシフトはまあまあ押さざるをえませんが。かな入力よりも少ないと喧伝されますが、左右シフトをカウントしてないような気がします。

•最上段のプライオリティは低い

かな入力と比べて大きいのはこれですかね。反面、シフトがある都合上、最下段の出番は多いですが。
この2点を総合して打鍵数が少なく効率が良いと言われています。

ではデメリット

•英字配列も覚えないといけない

これはかな入力の場合と同じですね。URLやメアドくらいは必要なわけで。

•エミュレータか専用キーボードが必要

これが一番しんどい。もう少し詳しく細分化します。

•専用キーボードは富士通の純正のみ

今はフルキーボードコンパクト型の二種類かな。キータッチや質感に選択肢はありません。しかもお高い。

•左右シフトの存在感が大きく、スペースキーが小さい

専用キーボードを使った場合のみ。スペースというか空白キーの大きさは通常キーと同じかやや小さいです。英語を入力する場合などは不便です。

•刻印と打鍵結果が食い違う

これはエミュレータで頑張る場合。習得時の負担になりますし、完璧に覚えたとしても精神衛生上の違和感は残ります。

まとめ

個人的な認識ですがざっとこんなところ。理論上は親指シフトが速いというのは理解できるんですが、マイノリティ故のデメリットが大き過ぎると思んですよね。競泳における「水の抵抗を考えなければバタフライが一番速い」というのに近い。
今までローマ字入力だった人が入力効率が上がるライフハックとしてチャレンジするには障壁が高すぎだろと思うわけです。

思考の阻害というのがキーワードとして出てきますが、「打鍵→ひらがな」よりも「ひらがな→漢字変換」の方がボトルネックとしては大きいと思うので、どう捉えるかというところ。入力方式が何であっても漢字変換に伴う思考の中断は入るわけですから、トータルの「日本語入力速度」という捉え方をした場合、その入口である配列や入力方式はわりとどうでもいいというのも一理あるのではないかと思います。

テレビ朝日「中居正広のミになる図書館」の美タイピング大辞典に登場する隅野貴裕さんRealForceにローマ字入力という布陣で、しかもステージ上だと緊張して実力の半分も出ないとコメントしてるので、どんな配列を使うかというのはやはり一要素でしかないと感じてたりします。
テレビで見てるとあの人は恐ろしく打鍵速度が速いみたいなので、たとえローマ字入力で打鍵数が多くても速さがあればトータルでの入力速度はカバーできるということなのかと思います。単に打鍵速度を上げるだけなら練習すればできます。親指シフトを覚えてみるというのとローマ字入力を極めるのと、どっちがいいのかというのは価値観次第ですね。
で、個人的な見解では親指シフトを新しく覚えることに、コスト的にも時間的にも汎用性的にもメリットはないと思ってます。打鍵速度そのものを上げるアプローチを模索するか姿勢やキーボードを見直す、あるいは漢字変換の効率化を試みてトータルでの「日本語入力速度」を上げる試みをした方がよっぽど費用対効果も時間効率もいいのではないかと。

余談ですがタッチタイピングと打鍵速度の向上を狙うのであれば、少し斜め上のアプローチですがピアノを習うというのも有効かもしれませんね。昔からピアノの嗜みのある人はタッチタイピングを覚えるのが早いと言われます。私もそうですが、元々左右の指を非同期ながらリズムよく動かすことに慣れているというのがその理由でしょうか。そもそも譜面を見なきゃいけないので指の動きを目で追う暇なんてありませんし。

コメント

  1. 杉田伸樹 より:

    はじめまして、親指シフト関係のブログを運営している杉田と申します。今回および前回のポストを拝見して、いくつかコメントをさせていただきます。なお、前回のポストで引用されていたブログの著者と私は面識等はありません。親指シフトユーザーや親指シフトを勧める者でも考え方はさまざまであることはご理解下さい。以下、断片的ですが気づいた点をまとめます。

    1. アルファベット配列に関して
    ローマ字入力はアルファベットの位置を覚えれば良いというのは確かにその通りです。ただ、実用的な速度でタイプをするというシチュエーションでは、英文入力とローマ字入力は使用される文字(キー)の出現頻度や続き具合といったパラメーターが大きく異なり(ローマ字入力で使われない文字、たとえばQを英文では使わなければならないといったこともあります)、ローマ字入力をしていることが必ずしも英文入力で大きなアドバンテージになるかというと、必ずしもそうではないと考えます。

    2. ローマ字入力は思考の阻害になりうるか
    この点は親指シフトのユーザーの中でも強調する方が多くいますが、私は必ずしも納得していません。私自身もローマ字入力をすることがありますが(タッチタイプができる程度には慣れています)、ローマ字を思い浮かべるというよりは指が自動的に動いていく感じです。筋肉が動きを記憶しているといった感じです。もちろん、これは感じ方の問題で、個人差があるかもしれません。ただ、ローマ字入力ではアルファベットが介在するからだめだというのは親指シフトを勧める根拠としてはあまり説得的ではないと思っています。

    3. 打鍵数とキーの配列
    入力する場合は当然、かな漢字変換のための操作があり、それはどの入力方式でも共通なので、差があっても実際の打鍵数の差は縮小します。そこで、文字部分だけで考えることとします。同じ文章を入力する際の文字部分の打鍵数の比率(親指シフト:JISかな:ローマ字)はだいたい1:1.1:1.7です。この比率はある程度の長さの文章ならかなり安定的です。これが多いか少ないかはもちろん人により判断が違うところです。
    なお、親指シフトでのシフト動作がどの程度、シフトなしに比べて負担が増すかについてははっきりした比較はありません。M式とよばれる入力方式を開発したNECの森田氏によれば、親指シフトではシフトがあるとシフトなしに比べると1.3倍負担があるとしていますが、その根拠は不明です。親指シフとユーザーとして個人的な感覚では、シフトによる負担はほとんどないと思っています。これは、英文でのシフト動作(小指を使い、かつキーを押し続けている)と違い、親指シフトでは親指を他の指と同時に動かすというやり方なので負担は格段に小さいからです。
    打鍵数だけでなく文字の配列も重要です。ご指摘されている最上段だけでなく、文字の配列を最初から合理的に配置した親指シフトが有利なのは明らかです。親指シフトを使うと指の動きがとても少なくなったのを実感できます。
    打鍵数とキーの配列(その結果として指の動き)は大事な指標ですが、それぞれが独立でしか議論されてきませんでした。この両者を統合した指標を簡単ですが私は考えましたが、これで見ると親指シフトの優位性はさらに増します。

    4. スペースキー
    英文入力ではスペースは重要です。現在販売されている親指シフト専用キーボードとJapanist2003という組み合わせでは、英文入力の際は右親指シフトキーがスペースキーとして動作するようになっています。これならほぼ英語キーボードでの使い勝手とおなじといえます。

    5. 刻印と打鍵結果が違う
    これは特にJISかなキーボードをエミュレーターで親指シフト化した場合です。タッチタイプをするのだから刻印なんかどうでもいい、という親指シフトユーザーもいますが、私は必ずしもそう思ってはいません。たしかに文字部分だけなら慣れれば刻印はどうでもよいのは確かですが、それ以外の特に使用頻度の低い部分は忘れたときに刻印があると便利です。親指シフト専用キーボードの存在理由はこんなところにもあります。

    6. 親指シフトがマイノリティーであること
    まったくその通りです。これはどうしようもありません。それを承知で個人のライフハックとして使うかどうかはそれぞれで判断するしかありません。ただ、私は問題はそこにあるのではなくて、社会が親指シフトをどう見るかというところだと思っています。親指シフトがマイノリティーでなくなったらどうなるか(そのようにするための知恵も力も私はありませんが)ということを考えています。

    以上、勝手なことをいろいろ申して恐縮ですが親指シフトに関していくらかでもご理解をいただけますと幸いです。

    • phase-d より:

      杉田様

      コメントありがとうございます。個人的には身近にユーザーもいるので、親指シフトについては理解している方だとは思っています。
      ただ近年、勝間和代が無邪気に親指シフトを勧めて、その信者が無自覚に礼賛するという状況は、氏に対する一部の批判的な見方とも相まって良くないんではないかと思ってたりもします。というか私自身が氏に対して批判的だというのはありますが。「社会からの見られ方」という意味では、氏の言動はむしろマイナスなのではないかなと感じたりもします。
      あとは富士通のやる気なんではないかなぁとも思ったりもしてますが。

      最終的には「個人個人の慣れ」「住めば都」でなんでも良し悪しあるという帰結だとも思ってます。
      一つ前の投稿で書いてますが、私自身はかな入力派です。
      個別の反論、というかコメントをさせていただくと

      > 2. ローマ字入力は思考の阻害になりうるか
      > ローマ字を思い浮かべるというよりは指が自動的に動いていく感じです
      個人的な話ですが、私がコレができませんというのは本文で書いたとおりです。どうやっても慣れないんですよね。

      > 4. スペースキー
      > 親指シフト専用キーボードとJapanist2003という組み合わせでは、英文入力の際は右親指シフトキーがスペースキーとして動作するようになっています。
      これは知りませんでした。そうなんですね。
      ちょっとだけ触ったことはあるんですが、いかんせんJapanist2003のIMEとしてのデキがどうよ、というイメージが抜けませんが…。

      • 杉田伸樹 より:

        phase-D様

        お返事ありがとうございます。実際の親指シフトユーザーを知っておられる(これは珍しいことです)と具体的なイメージがつかめますね。

        個別の親指シフトユーザーや親指シフトを勧める人に関してコメントすることは遠慮します。前のコメントに書いた「考え方はさまざまである」とだけ言っておきます。

        富士通のやる気に関しては、いろいろな言い方ができます。これだけ親指シフトユーザーが少ないのに良くやっているというひともいますし、とんでもないと思っている人もいます。私は組織として親指シフトをまがりなりにもサポートしていることを評価しています。なお、親指シフトに関しては「日本語入力コンソーシアム」という組織が現在は取りしきることになっています。これは正しい方向だったと思いますが、残念ながら活動は活発とはいえません。

        個人の入力方法の選択についてはおっしゃる通り「個人個人の慣れ」「住めば都」ということだと思います。それを他人に勧めるとなると話が変わります。親指シフトユーザーが陥りやすいのは、自分が使って良いからというだけの理由で(としか私には思えない)安易に勧めてしまうことです。

        Japanist2003のIMEのデキに関しては、確かにATOKのように最新の技術を取り入れてというところはありません。ただ、個人的には、使っていく内になじんでいく(学習能力が自然)感じがあり、これはこれで好きです。ATOKは最初から賢いという印象がありますが、Japanist2003は最初はだめでも使い込んで好みに仕上げていく感じです。あと、予測変換も使いやすいです。

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